WOW magazineは、この号で創刊200号を迎えます。そしてビジュアルデザインスタジオのWOWは、今年、創立25周年を迎えます。そこで記念すべき200号の準備にあたり、渋谷の本社にパンデミック後、勢揃いはできていなかったというWOWのエグゼクティブチーム、高橋裕士、鹿野護、於保浩介の3人が揃い鼎談を行いました。この3人がAXIS誌(156号)の表紙を飾ってからちょうど10年ということもあり、ファリシテーターとしてAXISの上條昌宏編集長も加わりました。盛り上がった2時間弱の鼎談からは、WOWの原点や進化、そして未来が浮かび上がってきました。今回、その内容を初期からWOWを取材してきたジャーナリストである筆者、林信行がWOW magazineとWOWのnote連動の特別記事として皆さんにお届けいたします。
原点:感性に軸足
WOWの出発点は、高橋が始めたWebページやCD-ROMの制作会社。しかし、その高橋が訪問先の会社で鹿野と出会ったことで会社の運命が大きく変わります。高橋は鹿野の才能と人柄に惚れ込み、やがて彼を会社に引き入れます。こうしてWOWとしての活動が本格的にスタートした頃、高橋はもう1人の才能、於保と出会いその感性に惚れ込みます。やがて、於保を引き入れ、この3人を中核とした現在のWOWの原形ができあがりました。以後、高橋は「この2人の才能を世界に広めたい」という思いを原動力にマネジメントを行い、彼らのクリエイティブとマネジメントのバランスの上で、これまでのWOW magazineを飾った数々の作品が作られてきたと言います。
では、高橋が惚れ込んだ2人の才能とはどのようなもので、それはWOWに他のデジタル制作会社と違うどのような特徴を生み出しているのでしょう。 「同じ山でも登り方が違うと思います。」クリエイティブディレクターの於保はそう言います。デジタル制作会社というと技術を軸足にしているところが少なくありません。しかし、WOWでは「技術よりは感性や絵心を大事にしています。」 そもそも於保も鹿野も、バックグラウンドは美術。まずは絵心や表現といったものが先に立ち、それを形にするために、その都度、必要なテクノロジーを習得し活用しており、技術を出発点とした制作は基本的にしないと言います。 今のWOWには、プログラマーなど技術職の社員も多くいますが、彼らの大半もWOW的な感性を主軸にした表現に共鳴し、そういったものを作りたいと集まってきた人々、美術やデザインといったものに興味がある人々だと言います。 「こういう表現いいよね。そんな暗黙の了解がある。」これもWOWの「奇跡」だとビジュアルアートディレクターの鹿野は言います。於保のディレクションを中心に、明文化もルール化もされていないのに社員同士で何が良いかが共有されており、例えば「テクノロジーが出過ぎた表現」などは自然に避け「表現を主体としたコンピューターグラフィックス」に制作が向かっていくと言います。 高橋は、こうした価値感の共有が、デジタル制作会社の中でも圧倒的に離職者が少ないことにもつながっているのではないかと分析しています。
進化:広がり続ける表現の幅
そんなWOWが、画面の上でのコンピューターグラフィックスでの映像表現から飛び出しインスタレーションなどの展示も本格的に手掛けるきっかけとなったのが2008年のミラノデザインウィークでした。キュリオシティとトネリコが開催する共同エキシビション「TOKYO WONDER」に参画し、美しさと混沌を合わせ持った東京の夜景を光と影というミニマムな要素で映像化した映像作品「LIGHTS & SHADOWS」を、歴史ある元郵便局の建物にインストールしました。 2008年に創刊されたWOW magazineの創刊号は、WOWによる空間展示の実質的デビュー作とも言える「LIGHTS & SHADOWS」を伝えるものでした。
自分達の活動の軌跡や、その裏の考えを丁寧に伝える、それまでもDVDや本で行っていた情報発信の活動は、やがてこのWOW magazineに集約されました。 その後、WOWはアプリをリリースしたり、アートとしての日本刀「aikuchi」や「BLUEVOX!」シリーズなど手で触れられる作品を作ったり、アート作品を制作し販売したりとさらに活動の幅を広げてきました。 それによってクライアントからの相談にも、以前のように映像での解決策だけではなく、目的に応じて空間づくりやアプリづくりなど、まったく映像を使わない方法も含めた幅広い提案ができるようになったと於保は言います。
未来:WOWがもっと当たり前に
そんなWOWが、今年、ついに設立25周年を迎えます。まず気になるのは昨年から予告されている25周年記念の企画展です。 まだその全貌は明らかにされていませんが、今回、高橋から、この秋に開催されること、およそ1ヶ月近くにわたって開催されることに加えて、WOWのエグゼクティブチームらベテランは一歩引き、若手にフォーカスをしたイベントになることが明らかにされました。 WOW25周年の直前、世界はコロナ禍に入り会社の会議やゲームなどあらゆるものがオンライン化されました。 「アップルを始めとする企業のイベントもオンラインとなり、作り込まれた映像を通して製品発表が行われるようになったり、企業がゲームエンジンを採用したりと世の中が大きく変わりました」と鹿野は振り返る。そんな中「WOWがやってきたような表現は特殊なものではなく、色々な人に手が届くような、つなぐような表現になっていくのかな」と感じていると語ります。
WOWが、もっと当たり前になる日常。現在、WOWは、そんな次の25年を覗かせる企画展の準備に全力を注いでいるようでした。 今回の鼎談で語られたWOWの原点、進化、そして未来に関するより深い話題は、本メールマガジンと同時公開となるWOW noteにてお楽しみください。
WOWオリジナル作品がTelly Awardsにて多数受賞
今年第43回を迎えるアメリカのTelly Awardsで、WOWは昨年に続き、オリジナル作品(「POEM」「輪郭-Contour-」「WOW PORTAL」)が銀賞4つ、銅賞1つを受賞しました。 新たな表現の拡張を試みるべく毎年制作しているオリジナル作品がこのように結実し、WOW一同喜ばしく思っています。これからもオリジナルワーク、クライアントワーク問わず、ビジュアルデザインに邁進して参ります。今後ともご支援いただければ幸いです。 POEM Non-Broadcast, Craft- Visual Effects銀賞 Non-Broadcast, Craft- Use of 3D Animation銅賞 輪郭-Contour Non-Broadcast, Craft- Visual Effects銀賞 Non-Broadcast, Craft- Art Direction銀賞 WOW PORTAL Immersive and Mixed Reality, Craft- Use of AR銀賞 Telly Awardsは、媒体を問わずすぐれた映像作品を表彰するもので、映像プラットフォーム、テレビ、ストリーミング、制作会社などのリーダーによって審査されます。Adobe、Netflix、Dow Jones、Duplass Brothers Productions、Complex Networks、Jennifer Garner、A&E Networks、Hearst Media、Nickelodeon、ESPN Films、RYOT、PartizanおよびVimeoなどが参加しています。 ▶ Telly Awards
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