WOWのオリジナル作品「BAKERU」は、2017年の「ハレとケ展」から始まり、「WOWが動かす世界展」「BAKERU: Transforming Spirits」「世界のBAKERUに会う」など、国内外で展開してきました。2018年以降は、文化庁の「舞台芸術等総合支援事業(学校巡回公演)」に採択され、「BAKERU」の体験を教育現場に活かすプロジェクト「バケルの学校」として全国の小学校を巡回。その土地ならではの文化を体感し、自分たちの地域にどのような伝統が息づいているのか発見する機会を提供しています。今年度は、BAKERUの新コンテンツ制作に加え、異なる地域に伝わる二つの郷土芸能の交流にも取り組んでいます。
アイヌ文化を取り入れた新コンテンツ「ハラㇻキ」
初の北海道公演では、平取アイヌ文化保存会や町内にある博物館の監修を受け、平取アイヌ古式舞踊「ハラㇻキ」をテーマにした新コンテンツを制作。「ハラㇻキ」には、タンチョウが湿原で踊る様子や大空を舞う姿を表現した踊りがあり、「みんなで楽しんで踊る」ことを大切にする思想は、BAKERUのコンセプトとも通じ合います。平取から臨む幌別岳(ホロベツ岳)や戸蔦別岳(トツタベツ岳)をイメージした背景、アイヌ文様や配色を取り入れたタンチョウのアバター、カムイへの思いを反映したストーリー等、平取アイヌに受け継がれてきた風土や物語に私たちの解釈を取り入れ、WOWの「ハラㇻキ」が誕生しました。本作は、既に秋田県北秋田市立義務教育学校阿仁学園でお披露目し、今後、北海道平取町立二風谷小学校での公演を予定しています。
▶
バケルの学校「ハラㇻキ」前編異なる土地で生まれた郷土芸能の交流
今年度の「バケルの学校」では、異なる地域の芸能が出会い、その思想や感性が響き合う場の創出にも取り組んでいます。演者は他地域の観客の反応から、自身の郷土芸能に対する新たな視点を得る一方で、観客は異なる土地の芸能を通して、自らの地域に根ざす個性や魅力を再発見します。こうした双方向の体験は、互いの文化を鏡のように映し出し、自分たちの郷土を相対的に捉え直すことで新たな気づきを得るきっかけになると考えられます。異なる風土で育まれた芸能の中に共通する所作や思想、祈りのかたちから浮かび上がる人間の普遍的な営み——。それらは、長い時間をかけて互いに響き合いながら、豊かな文化の地層を築いてきた日本の姿ともいえます。
今回の交流では、北海道平取町の「平取アイヌ文化保存会」と、秋田県北秋田市の「根子番楽保存会」に協力をいただきました。交流の様子は映像に記録され、現在ドキュメンタリー作品として制作が進行しています(2026年公開予定)。どうぞご期待ください。
人と土地を結ぶまなざし
「ハラㇻキ」や郷土芸能の交流に加え、各地に伝わる芸能の演舞や、お面づくりのワークショップも継続して実施。地域によっては、授業の一環として郷土芸能を教えている学校もあります。「バケルの学校」では、そうした教育現場と連携しながら、知識として「知っている」だけでなく、身体を使って「感じる」体験へとつなげることにも積極的に取り組んでいます。
その土地で長い時間をかけて紡がれてきた文化、風土、歴史——。人のまなざしを介して浮かび上がる土地の個性が、郷土への誇りや人との結びつきを深め、その土地の文化資産として形成される。そのまなざしは自身へと巡り、自らのルーツを見つめることでアイデンティティが育まれ、未来を自分らしく生きる力へとつながっていく可能性を秘めています。子どもたちと土地を結ぶまなざしを育み、感性と志向性が響き合う「バケルの学校」。その豊かな学びの場に、これからもぜひご注目ください。