水の惑星・地球と対峙する体験

No.6( Commission )

#Creative Direction#Art Direction#Future Design

2025

水の惑星・地球と対峙する体験

大阪・関西万博2025 | BLUE OCEAN DOME

大阪・関西万博2025の「BLUE OCEAN DOME」。テーマは「海の蘇生」。WOWは直径約10mの半球体LEDディスプレイに映し出す映像を演出・制作した。原研哉氏のディレクションのもと、全編3DCGで地球の大半を占める海のリアルな表現に挑戦。自然の美しさと環境問題の静かなメッセージが共存する映像体験を生み出した。

Mission: 「1970年の大阪万博で展示された『月の石』の存在感に匹敵する『リアルな地球』を見せたい」という原氏からの要望。宇宙飛行士との対話や海への潜水など、リサーチから体験の解像度を高め、ノンバーバルに訴えるビジュアルを制作。
Approach: 世界に一つしかない巨大な半球体LEDディスプレイにあわせて、約7分間の全編3DCG映像を制作。CG素材のモデリング以外はすべて内製し、演出、音響、ディスプレイ制御までを一貫して手がけた。

「地球を見せたい」

Chapter.1

大阪・関西万博2025の、特定非営利活動法人ゼリ・ジャパンによるパビリオン「BLUE OCEAN DOME（ブルーオーシャン・ドーム）」。テーマは「海の蘇生」。建築家の坂茂氏が建屋の設計を手掛け、原研哉氏と日本デザインセンターの原デザイン研究所が展示構想およびディレクションを務めた。3つのドームから構成されるこのパビリオンで、WOWは2つ目のドームに位置する直径約10mの半球体LEDディスプレイに映し出す映像の演出・制作・演出を担当した。

原氏から受けた映像のコンセプトは「地球を見せたい」というものだった。かつて原氏が幼少期に体験した1970年大阪万博の「月の石」の存在感に匹敵するような、リアリティある地球そのものを見せるという、4年間にわたるプロジェクトが始まった。肉眼で「実際の地球」を見たことがある宇宙飛行士・山崎直子氏との対話や、インドネシアのラジャ・アンパット諸島で「最も美しい海」を目に焼き付けるために潜水するなど、原氏を含むプロジェクトチームでフィールドワークを重ねた。そうした体験を通じて、宇宙から地球を見渡すマクロな視点と、地球の深部を見つめるミクロな視点の両面から、映像の方向性を探った。 WOWのディレクションによりアズラボ社が製作したLEDディスプレイは、世界に一つしかない特注品である。プロジェクターでは捉えきれない繊細なディテールまで描き出す高精細なディスプレイを目指した。さらに、宇宙飛行士が大気圏外から見るような「漆黒に浮かぶ地球」を表現するために、光を吸収する特殊な塗料を施したカバーでディスプレイを覆った。この巨大な映像装置によって、「地球」の存在感に近づけた。

「全編3DCG」への挑戦

Chapter.2

原氏から全体の絵コンテが共有され、それに沿ってWOW目線での演出コンテの作成を進めた。しかし本当に求める映像を実際に撮影するには限界があった。そこで全編CG映像とすることを決断。フォトリアリスティックな海中の様子を含め全てをCGで、しかもモデリング以外のプロセスを内製することにした。

水の惑星である地球が、人間の営みから生まれたゴミによって、存亡の危機にある。今回の映像作品では、細胞レベルの微細な描写からリアリスティックな海中の様子、さらに宇宙からの俯瞰と、想像の世界まで、さまざまなシーンが融合しながら来場者の感覚に訴えかける。海洋プラスチックごみを中心とする環境問題というセンシティブなテーマを扱いながらも、説明的すぎない映像演出を心がけた。インパクトを出す部分と静かに語るバランスにメリハリをつけ、見る人に解釈を委ねる余白をあえて生み出す。言葉がなくとも、人に何かを感じてもらう映像を目指した。たとえば生き物たちと「目が合う」シーンは、人によって解釈はさまざまだろう。悲しそうと感じる人もいれば、純粋な好奇心を感じる人もいるかもしれない。しかし共通するのは「なぜか目が離せない」という体験である。そのような感覚を、どのシーンでもつくろうと心がけた。

映像に欠かせない音楽表現についても熱い議論が交わされた。最終的に選ばれたのはヴォーカリストのハチスノイト氏による歌声。言語や意味を超えた、まるで海の生き物たちの声なき声を表すかのような楽曲が、映像をベースに書かれた。「神聖さのある楽曲」を想像していた原氏のイメージともマッチした。

余白ある演出

Chapter.3

WOWらしさは特に「演出しすぎない演出」に表れている。カメラワークもひかえめで、あくまで生きものたちの自然な動きを表現する。CGではあるが、アニメ映画のような「演技」はさせない。「泣き所」もつくらない。それによって、フィクションでありながら、ノンフィクションのような説得力が生まれる。そのうえで、最もこだわったのは「美しく仕上げる」ことだった。美しくなければ、人は映像から目を逸らしてしまう。ゴミにまみれたシーンも、ショッキングなシーンも、職人的に「美しさ」に向き合った。それは普段の仕事の延長線上でもある。

映像制作だけで2年以上の歳月を費やした今回のプロジェクト。フィールドワークやリサーチ、試行錯誤を繰り返し、短期では決して辿り着けない映像が生まれた。海が抱える現実と神秘的な美しさを、CGと気づかないほどのリアリティで描写しつつ、幻想的な映像世界を実現した。

Credit

Creative Director : Kosuke Oho Director : Hiroshi Ouchi Designer : Tomoya Kimpara, Takuma Sasaki, Kenji Tanaka, Hironobu Sone, Yutaro Mori, Takeru Tsukajima, Kosuke Sugitani Producer : Ko Yamamoto Production Manager : Ren Ishikawa Modeling (Whale) : LiNDA Modeling / Animation (Deep sea fish) : KASSEN, WACHAJACK, HASH, Cafegroup, eto Music : Hatis Noit Sound Design and Arrangemenet : Masato Hatanaka LED Design and Software : AZLAB Shooting : NHK Enterprises, Plan D Advisor (Deep sea) : JAMSTEC Pavilion Producer / Art Direction : Kenya Hara Production / Project Management : Hara Design Institute, Nippon Design Center Architecture : SHIGERU BAN ARCHITECTS Photo ©TAIKI FUKAO ©Nippon Design Center