「見たことのない生き物」はデザインできるか

No.4( Commission )

#Branding#Art Direction

2023

「見たことのない生き物」はデザインできるか

Overbeast | VERIZON

アメリカの大手電気通信事業者であるVERIZON社の5Gネットワークを活用したゲーム、「Overbeast」の開発プロジェクト。WOWはビーストたちのキャラクターデザイン、モデリング、アニメーションを含むバーチャルビジュアル全体を担当。2023年春にアメリカでローンチし、Lovie AwardsにてXR Experience - Best Game Experience Goldを受賞した。

Mission: VERIZON社の5G技術を最大限に活用した都市規模の協力プレイ型ゲーム開発プロジェクトにおいて、新たなキャラクターと世界観をビジュアルで表現。
Approach: ゲーム内のARで投影される全てのバーチャルビジュアルをWOWが担当。「ビースト」と呼ばれるオリジナルキャラクターを含む、世界観全体を生み出した。

5Gの可能性を引き出す、ARゲームプロジェクトの挑戦

Chapter.1

世界最大級のネットワーク・セキュリティ・クラウドサービスプロバイダーであるアメリカのVERIZON社は、2023年、5Gの可能性をアピールする手段として、オリジナルのゲームを提供するプロモーションを実施した。5Gが実現する高速データ転送能力をいかし、リアルタイムのAR技術を駆使したリッチなビジュアルが特徴である。本プロジェクトのディレクターはロンドンに拠点を持つLIQUID CITYの松田桂一氏。WOWは、このゲームの肝ともなる、オリジナルのモンスター「Overbeast」（以下、ビースト）を中心としたキャラクターそのものと世界観のデザイン、またアニメーションの制作を担当した。

松田氏がWOWに提案したストーリーは、ニューヨークのセントラル・パークで孵化する巨大な卵が起点となる。プレイヤーは、同じ地域の市民と協力してその土地固有の巨大なビーストを育て、最終的には州別の全米大会「Ultimate Overbeast Championship」で自分たちの地域の勝利を目指す。このゲームの最大の特徴は、リアルタイムのAR体験に加え、都市規模の協力プレイである。自分の街の風景にスマートフォンをかざすと、その土地のビーストが現れる。地域全体で協力して街に飛び交うリソースの「花粉」を集め、1体の巨大なモンスターの育成に取り組むのだ。つまり、ニューヨークとロサンゼルスでは異なるビーストを地域の住民が一丸となって育てる仕組みである。一週間で集められたリソースの量によって、モンスターの強さが変わり、週末になると州対抗のバトルが繰り広げられ、プレイヤーの協力度により勝者が決まる。この迫力あるバトルシーンもゲーム体験の目玉の一つである。

未知のモンスターたちが生み出す、新しいビジュアル体験

Chapter.2

ゲームに強い個性を与えるモンスターをはじめ植物などの世界観を手掛けたのは、WOWのビジュアルデザイナー大賀頌太である。ARで投影されるすべてのデザインを手掛けた。パラレルワールドである「オーバーワールド」に生息する未知の生物としてデザインするために受けた要望は「まだ見たことのない生物」。そこで大賀は、キャラクターの芯となる「能力エレメント」を構想し、アニメーションになったときのエフェクトを想像しつつ、さまざまな生き物の体格や体表、身体的な機能を組み合わせながら表した。

たとえば「Tectonicore（コードネーム Magnetic Bird / 磁鱗鳥）」は、「磁力」を持つ強力な鱗を飛ばして攻撃するビースト。翼竜や鳥に似た出立ちだが、前に3本指、後ろに1本指を持つ合趾足（ごうしそく）を持ち、同時に羽の先端からも脚が生えている。そのため四つ足の生き物のような姿勢も可能で、「敵の攻撃から身を守るために羽毛が鱗に進化し、飛べなくなったために脚が生え、遠隔で攻撃するために磁力を操るようになった」という設定がある。他にも、風や水などを操るビーストたちがおり、結果として5種類のビーストは、いずれも個性的なビジュアルとなった。

キャラクターデザインと同時に考えられたのが、WOWの得意分野とも呼べるエフェクトの表現方法だ。戦闘シーンをよりリッチに見せるため、キャラクターの能力に個性を持たせたり、見たことのない動きを想像したりと、1年ほどかけてそれぞれの特性が生まれた。その結果、パーティクルや布のような質感、ビーストたちの毛並みから煙の出方まで、ユニークで迫力のあるアニメーションが可能となった。

地域に愛されるデザイン

Chapter.3

ARゲームにおけるキャラクターデザインは、魅力的であればなんでも成立するわけではない。一番注意しなくてはいけなかったのは意外にも「ビルに隠れないようにする」ことだったという。ビーストの顔が地面に近いと、建物や街並みに隠れてしまうため、魅力が半減してしまう。テストアプリで何度も確かめ、そのような要素も加味しながら、キャラクターデザインを進めた。

またそれぞれの地域で平等に愛されるように、顔のバリエーションも作成。「怖くなりすぎず、しかし可愛くなりすぎず」の塩梅を探ったという。詳細なキャラクターの設定やデザインをスケッチに書き起こし、チームに提案していった。外部のモデリングアーティストとも連携し「昆虫に似たビーストだから腹部の気門から煙が出るようにしよう」など、より詳細なニュアンスを加えた。

バトルシーンはすべてアニメーションの形式でユーザーの目に届くことになった。5Gだからこそ可能なこの仕様により、リアルタイムレンダリングでは叶わないような迫力あるバトルシーンが生まれた。すべてをアニメーションで表現するためにつくるパーツの量は膨大で400本以上にのぼったというが、その分、細部の作り込みを実現できた。本プロジェクトでは、企業の有する技術的なケイパビリティとWOWのビジュアルデザインの技術力・表現力を融合させ、ユーザーへ新しい世界観を届けた。

Credit

Director : Keiichi Matsuda (LIQUID CITY) Concept / Production : LIQUID CITY Technical Direction / Programming : TERAHARD Sound Design : SKILLBARD WOW Character Design / Direction : Shota Oga Visual Designer : Tomoya Kimpara, Takuma Sasaki, Kenji Tanaka Producer : Ko Yamamoto Modeling / Rigging / Animation CG Producer : Taiyo Sato (KASSEN), Kouhei Miki (KASSEN) CG Line Producer : Taiyo Yamamoto (Korat) CG Production Manager : Saori Yamagami (HASH) CG Designers : KASSEN, Korat, HASH, Kaleka Studios, NORIBROS, Modeling Cafe, ignis image works