ここでしか得られない「いのちを磨く」体験

No.5( Commission )

#Creative Direction#Art Direction#Future Design

2025

ここでしか得られない「いのちを磨く」体験

大阪・関西万博2025 | null²

「null²（ﾇﾙﾇﾙ）」は、2025年大阪・関西万博にて落合陽一氏がプロデューサーを務めるシグネチャーパビリオンである。WOWは、このパビリオンのクリエイターチームとして企画・映像・サウンド・演出システム全般に参画。落合氏とともに「ここでしか得られない体験」として具体化する役割を果たした。

Mission: 「いのちを磨く」というメインテーマを「2つの鏡」を媒体に、パビリオンというフィジカルな場でユーザー体験として落とし込む。
Approach: WOWは、展示館内の映像、音響、ロボット制御、体験フローから館外映像まで、多岐にわたるクリエイティブ要素を統合し、コンセプトにふさわしい体験へと昇華させた。

「null²」のはじまり

Chapter.1

大阪万博2025で落合陽一氏がプロデューサーを務めるシグネチャーパビリオン「null²（ﾇﾙﾇﾙ）」。WOWがプロジェクトに参加したきっかけは、落合氏との8年間にわたるオーケストラプロジェクトでの協働関係だった。

空間の設計を手掛けた noiz architects をはじめ、落合氏の信頼を集めるクリエイターや企業が約4年間かけて協業した。キックオフのタイミングでは建築や映像など具体的な体験は決まっておらず、メンバー全員で議論しながらプロジェクトは進んだ。落合氏は「いのちを磨く」を「null²」の全体テーマとして掲げた。このパビリオンでは、参加者自身の外見や声、また生活するなかで身につけてきた趣味嗜好など、「その人らしさ」を構成する「きごう」からの解放が体験の主軸にある。つまり、固定観念や決まりきった姿に囚われなくなることで真に自由となり、結果として「いのちが磨かれる」という思想が根底にある。世界各地の死生観や宗教観、また宇宙観についてが初期の議論の中心で、輪廻転生や胡蝶の夢という東洋的思想もブリーフィングから織り交ぜられていた。WOWもプロジェクトを進める中で、般若心経における「空」の概念や、その記号化を通じてコンセプトの理解をともに深めていった。

2つの鏡

Chapter.2

この「いのちを磨く」というテーマを体験として実現するためのキーワードが「2つの鏡」である。一つは周囲の風景を取り込みながら脈動する「彫刻」でもある外観、もう一つが来場者一人ひとりの「Mirrored Body®︎（ミラードボディ）」を用いた館内での体験そのものだ。「彫刻」の外装は鏡面で覆われており、周囲の景色を歪め、環境を映し込む。また内部の部屋も鏡で覆われており、映像は無限反射する。物理的な建築物でありながらも、内外が生命体のように動き続ける。

「Mirrored Body®︎」は体験者自身のデジタルヒューマンである。事前にアプリで生成された、「もう一人の自分」が映像体である「モノリス」に現れる。彼らと対話した先で、自分自身に付随したしがらみとも言える「きごう」を手放し、消失させる。物理世界では不可能なこのプロセスにより「いのちを磨く」というある種、儀式的な体験が可能となる。

パビリオンには大きく2つのモードがあるが、これは「ダイアログモード」内の体験である。もう一つの「インスタレーションモード」では言語に頼らない人工生命による映像インスタレーションを回廊から観覧できる。

スクラップ・アンド・ビルド

Chapter.3

このプロジェクトはチーム全体による、「作家活動」の側面が強くあった。一般的な仕事で必要とされる明確なスケジュールや仕様に沿ったプロセスではなく、仮説を立て、手を動かし、壊し、そしてまた作る、の繰り返しだった。それは開幕前日まで続いた。プロジェクトに向き合った4年間、常に作り続け、壊し続けていた。それは決してネガティブな失敗ではなく、作品のブラッシュアップに対して必然の工程だった。進行において、WOWは映像制作はもちろん、空間演出全体の設計も担当した。落合氏と緻密な議論を重ねながら、AIによるリアルタイム動画生成、音響設計、画像のエフェクト、アプリで生成したMirrored Body®︎の制御から、映像体のモノリスや、天井にあるロボットアーム「ご神体」の細かな動きなど、それら全てを統合するハブ的役割を担った。いわばデザインしたのは、空間体験全体のタイムフローだった。落合氏の構想を現実に翻訳し、各所と調整しながら体験全体を設計する作業は、作家性と構築力の両立が求められた。

圧倒的なリアルの体験

Chapter.4

世界のほとんどの情報にSNSで簡単にアクセスできる現代。「null²」も例に漏れず、インスタレーションの行程のほぼすべてがインターネット上で見られる。いわば「ネタバレ」状態である。しかしチームメンバーの誰もそれを気に留めない。「現場でしか得られない体験」を追い求め、フィジカルなハードルを超える仕掛けを各所に設け「ここに来ないと楽しめない」と断言できるパビリオンに仕上げたためだ。数え切れないほどのスクラップ・アンド・ビルドの先に、ここだけの圧倒的な体験が生み出された。

Credit

Creative Director : Kosuke Oho Director : Tatsuki Kondo Technical Director : Takeshi Funatsu, Yuta Nakano (raw) Programmer : Sunataro Hosoi, Seiya Takasawa, Keita Abe, Tomonari Hayashi (raw), Shion Oka (raw), Natsuki Nishimoto (raw) Sound Designer : Tomohiro Nagasaki Designer : Saki Kato Director (PR Movie) : Shigetaka Makabe Production Producer : Go Hagiwara Producer : Yoichi Ochiai General Supervision : Digitalnature and Arts, jiseCHI, REAL WORTH, OKSAT, Mazda Motor Corporation Architecture : NOIZ, Arup, Fujita & Daiwa Lease JV Interior Design : NOMURA Exterior Special Effects : TASKO Inc. Exterior Membrane / Sacred Object (Goshintai) : Asratec, Sunmechanic, Imamura Jusetu, Taiyo Kogyo, Syntegrate, Issunbou Exterior Membrane / Content : Toyo Keisou, Hikari Elect Works, Satouchi, One Leaf Exterior Membrane : Ozaki Wel Steel AI System Development : AXELL CORPORATION LED Hardware : Seibidou, Prism App Development : Accenture Virtual Pavilion : Akichika Tanaka Videographer: IMURA OFFICE ING., ©Yoichi Ochiai Drone Operator: DAICI ANO Operations : Hakuhodo