「化ける」という体験が、未来に伝えること

No.1( Folklore )

#Creative Direction#Art Direction#Research and Development

2017

「化ける」という体験が、未来に伝えること

BAKERU | Original Project

「BAKERU」は、「なまはげ」や「鹿踊」など、東北に古くから伝わる郷土芸能とデジタルアートを融合させ、その世界観を体験できるインタラクティブ作品である。お面をかぶりスクリーンの前に立つことで東北の郷土芸能のモチーフに「化ける」ことができる。WOW 仙台オフィスのメンバーを中心に制作し、2017年3月の発表以来、国内外で展示されたほか、文化庁「舞台芸術等総合支援事業（学校巡回公演）」においてメディア芸術枠に採択された。全国の小中学校の子どもたちに、文化芸術としてBAKERUを体験する授業が継続的に行われている。

Mission: デジタルアートを通して、郷土芸能をインタラクティブな体験として再構築し、その土地に伝わる豊かな文化や風土を知るきっかけをつくる。
Approach: 東北地方の郷土芸能に多く見られる、人が何者かに「化ける」行為をテーマに、お面をかぶりスクリーンの前に立つことで人以外の存在に「化ける」ことができるデジタルアート作品を制作。

「つくるべきものはなにか」という問いから

Chapter.1

WOWのオリジナルワークである「BAKERU」の企画が始まったのは、2015年のこと。2011年の東日本大震災を経験した仙台オフィスのメンバーが、次につくるべきものは何かを話し合った。今一度立ち止まり、自分たちが今後何を表現していくか、誰に何を伝えるかの意義を見つめ直した。「東北」という大きなキーワードを考えるうえで出てきたのが「祭り」や「伝統文化」「郷土芸能」という言葉だった。

メンバーにとっても、東北地方の風習や文化はあまり掘り下げたことのない内容だった。風習について話すなかで、チームの沸点が上がった瞬間は「お面をつける」という話題。有名な秋田の「なまはげ」をはじめ、東北にはお面や衣装を身につけて何者かになりきる舞いが数多くある。この点についての理解を深めるため、郷土芸能「鹿踊（ししおどり）」の伝承者である小岩秀太郎さんを訪ねた。装束をまとって舞うとはどのような感覚なのか。インタビューを進めるなかで「お面をつけることで、何かが降りてきているような、自分ではない何かになっている感覚がある」という印象的な話を伺えた。伝統的な芸能や行事は、高齢化や後継者不足の課題からも目を背けられない。震災をきっかけになくなった郷土芸能があることも聞いた。できることは多くはないかもしれないが、CGや映像の技術によって、次の世代に地域の文化を伝えるきっかけができるのではないか。WOWのCGデザイナー、UIデザイナー、プログラマー、プロデューサーなど、多様なメンバーが一丸となり議論を重ねた上でたどり着いたのが「BAKERU」のアイデアだった。

郷土芸能を伝える体験のデザイン

Chapter.2

東北出身である「BAKERU」の初期メンバーが、自分たちの住む地域の伝統文化を若い世代にも知ってもらいたいという考えから、子どもたちをターゲットに設定した。最初に選んだモチーフは秋田県の「なまはげ」、岩手県や宮城県の「鹿踊」、山形県の「加勢鳥（かせどり）」、宮城県の「早乙女」の4種類。モチーフとなる芸能に対して、親しみやすさや可愛らしさを備えたキャラクターデザインとモーションを施し、WOWならではの解釈と表現を加えた。

体験者がお面をつけていない状態では、スクリーンにはただのシルエットが映っている。体験者がお面を顔につけると、シルエットが変身し、スクリーン上の「なまはげ」や「鹿踊」のモチーフが体験者の動きに合わせて動く。子どもたちは、「BAKERU」を通して「人間ではない何か」に化ける不思議な体験を得る。遊びのような一連の行為が、実は地域の郷土芸能をテーマにしていることに気づき、知るきっかけになればと、試行錯誤を重ねながら体験を設計。2017年3月に「せんだいメディアテーク」で開催したWOWの自主企画展「ハレとケ展」で発表した。

各地域の次世代に郷土芸能を届けるプロジェクトへ

Chapter.3

「BAKERU」は「JAPAN HOUSE LOS ANGELES」など国外でも展示を開催してきた。直感的に体験できる作品は、国境を超えて世界の人々にも受け入れられた。また、2019年には文化庁の「舞台芸術等総合支援事業（学校巡回公演）」に採択され、全国の小中学校で「BAKERUの学校」が展開されている。

巡回公演の授業は、二日間の日程で実施。一日目は、郷土芸能の紹介と実演に加え、生徒たちに自分たちなりの神様になってもらうためのオリジナルお面を制作してもらう。二日目には、自作のお面をつけて「BAKERU」を体験。地域の特色や授業の方向性から、実施校にあわせてプログラムを調整している。たとえば、岐阜県・山之村小学校では地元の獅子舞「森茂獅子」に、宮城県・栗原市立築館小学校では南部神楽の「鶏舞（とりまい）」にフォーカスし、新しいコンテンツを制作した。 WOW 仙台メンバーからはじまった「BAKERU」は、東北地方を飛び出し、全国に広がっている。2025年現在、「BAKERUの学校」は全国約40校ほどを巡回した。現代的な表現と技術を通じて、日本各地に息づく伝統文化を知るきっかけとなるよう「BAKERU」はこれからも日本中を旅する。

Credit

Executive Producer : Hiroshi Takahashi Project Advisor : Mamoru Kano Creative Director : Kaoru Kudo Planner : Hiroki Sato Art Director : Yusuke Mizuno Designer : Sayaka Maruyama, Shinya Kikuchi, Hiroshi Ouchi, Yusuke Mizuno, Takuma Sasaki Programmer : Atsushi Yoshimura, Hiroki Sato, Seiya Takasawa Sound Designer : Tomohiro Nagasaki Producer : Takuya Inagaki Logo / Graphic Design : Yutaka Ito Coordinator : Takemi Watanabe Product Designer : FabLab Sendai Flat, Fukunaga Print Co., Ltd. Projector Supplier : Prism inc. Special thanks : Miyagi University